なるほどノイズ(EMC)入門

【実践編②】電子化が進む自動車にはノイズ問題が凝縮

EMC(電磁両立性)とは、EMI(電磁妨害/エミッション問題)とEMS(電磁妨害感受性/イミュニティ問題)を両立させることです。しかし、一方で有効利用される電波が、他方にとってはノイズになるということが問題を複雑にしています。誰にも身近で命にも関わるノイズ問題は、電子化が進む自動車。自動車のさらなる安全性・快適性・省エネ化は、ノイズ問題の解決なくして達成されません。

大事故につながりかねない飛行機のノイズ障害

飛行機に搭乗すると、スマートフォンの電源を切るようにアナウンスされます。なぜスマートフォンの電源を切る必要があるかというとスマートフォンから発信された電波が、操縦室の計器類や通信機器に障害を与える恐れがあるからです。飛行機には外部と通信するためのアンテナがあり管制塔やGPS衛星との通信に使用されています。客室内や窓からスマートフォンの電波が漏れてアンテナに影響を及ぼす可能性があるためです。また、機内には多くの電気系統の信号ケーブルがあり、これにスマートフォンの電波が干渉してノイズによる影響が発生する可能性があるためです。近年は、飛行機のEMS耐量が向上し、機内モードに切り替えれば離着陸時も含めてスマートフォン使用を許可するところも出てきました。これは機内モードが電波を発信しないためです。
電子機器ではない電気カミソリも、モータからノイズが放射するので離着陸時は使えません。うっかり使用したからといって必ずしも飛行に支障をきたすというわけではありませんが、飛行機の計器類は高感度なため、万全を期してノイズの発生源と思われるこれら電子機器からの電磁妨害を防いでいるのです(EMI)。
飛行機の操縦桿はワイヤ(電線)を通じた電気信号により、アクチュエータを駆動してエンジンのスロットルや翼のフラップを操作しています。油圧によるメカニックな機構では機体は重くなってしまうからです。これをフライ・バイ・ワイヤといい、コンピュータともなじみがいいので、自動操縦も可能になりました。しかし、トラブルが発生したときエンジンを止めてチェックすることはできません。そこで、幾重もの安全対策とともにノイズ対策も徹底されています。電気信号のかわりに光信号を利用し、光ファイバーで伝送するフライ・バイ・ライト(光)という技術の開発も進められています。これは、ノイズに妨害されないシステムの一つです(EMS)。
自動車においても、飛行機のフライ・バイ・ワイヤと同様のシステムが導入されはじめています。従来、油圧でコントロールしていたブレーキ、ステアリングなどをECU(電子制御ユニット)による電気駆動に変えようというもので、これはX・バイ・ワイヤと総称されています。この技術が自動車の各部に展開され、AIと融合し自動車の自動運転につながっていくと予想されます。

飛行機の無線航行システムに利用されるVHF帯(30〜300MHz)は、マルチメディア放送やFM放送ほか消防無線、アマチュア無線などにも利用され、非常に混雑した周波数帯となっている。

FMラジオの局部発振信号や、デジタル機器が発生する放射ノイズは、飛行機の無線航行に支障を与えるおそれがある。

分散された電子制御が車載LANでネットワーク化

電子化が進んでいる昨今の自動車には、10〜70前後のECU(電子制御ユニット)が使われています。これらのECUは車載LANによってネットワーク化されており、車載LANはパワートレイン(駆動)系、ボディ系、マルチメディア系、安全系(エアバッグなど)に分類されます。
車載LANはまず自動車の軽量化のために導入されました。自動車の電子制御が個別に進められたため、電気信号を伝える銅線のワイヤが増えて束となり、場所をとるばかりか数10kgの重量に及ぶようになったからです。そこで、オフィスにおけるLAN導入のように、重いワイヤの束(ワイヤハーネス)を1本にまとめたのがCAN-BUSに代表される車載LANです。しかし、CAN-BUSは信頼性が高いものの高速対応には不十分です。そこで、X・バイ・ワイヤ時代のパワートレイン系車載LANとして、FlexRayが導入されてきています。マルチメディア系の車載LANとしては、高速・大容量転送を実現するMOSTやIEEE1394などが導入されていますが、近年はデータ伝送速度が高速、車載ネットワークを簡素化しやすい、IPベースでデータをやり取りできるのでクラウド側との連携がより容易になる点でEthernetも導入されてきました。いわば車載LANにおけるブロードバンド化です。こうした車載LANは外部のネットワークともつながり、今後は事故回避システムや車車間通信などにも利用が進むと予測されています。
ASV(先進安全自動車)の導入も段階を踏んで進められてきています。これは目的地さえ入力すれば、ハンドルやペダル操作なしに、他の自動車との衝突や路線逸脱などを避けながら自動運転してくれるというもの。いずれは居眠りしているうちに目的地に到着するという時代もそう遠くはないでしょう。しかし、自動車は地上を走るとはいえ、飛行機にも増して高度なノイズ対策が求められます。というのも、自動車を取り巻く電磁環境は飛行機以上に劣悪だからです。

ITS&テレマティクスをサポートするTDKのトータルEMCソリューション

自動車は狭い空間の中に、ノイズ発生源であるエンジンや数十個以上のマイクロモータを搭載しながら走行します。ECUや車載LANなどには、こうしたノイズによる誤作動を防ぐための対策が要求されます。また、ノイズは車外からも侵入してきます。電力施設付近を通過する際に強い電磁界を浴びたり、不法・違法のパーソナル無線を使用するトラックなどが接近する場合もあるからです。かつてオートマ車が急発進・急停車するという事故がありましたが、これは不法・違法のアマチュア無線局が飛ばす電波が一因でした。カーラジオの混信・妨害というのも珍しくありません。
その一方で、テレビやビデオなど、車載システムのマルチメディア化も著しく進行。スマートフォン(運転手は走行中使用禁止)やGPS搭載通信型カーナビ、ETC、ドライブレコーダなど走行中の電波利用も拡大しています。今や自動車は”走るリビングルーム”あるいは”走るオフィス”。自動車にはエレクトロニクス社会のノイズ問題が凝縮されているといっても過言ではありません。
1万を超えるといわれる自動車部品において、電子部品の占める割合は、年々、高まっています。しかも、自動車用電子部品は酷寒から灼熱までの広い温度範囲で使われるばかりでなく、耐振動性や耐水性など、一般の電子機器よりもはるかに高いレベルの特性・信頼性が求められます。
自動車の安全性と快適性の両立には、EMI(電磁妨害)とEMS(電磁妨害感受性)の両立、つまりEMC技術が不可欠です。素材技術、プロセス技術、評価・シミュレーション技術というコアテクノロジーを結集、カーエレクトロニクス市場で高い評価を得ているのがTDKのEMC対策部品。高性能電波暗室を利用したノイズ測定やイミュニテイ評価などのサービスも、自動車の安全性と快適性の向上に大きく貢献しています。
ノイズ対策はノイズが発生してからの対症療法ではなく、設計、開発、評価、対策という一連の活動を通して、たえず考慮する必要があります。この考えに立つのが、TDKのトータルEMCソリューション。ITS&テレマティクス時代のカーエレクトロニクスを強力にサポートします。

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