なるほどノイズ(EMC)入門

【部品編⑥】ワンタッチ装着でノイズを抑止するクランプフィルタ

電子機器には、さまざまなノイズ対策がほどこされていますが、パソコンや周辺機器などのデジタル機器をインタフェースケーブルで結ぶと、放射ノイズを発生したり、外来ノイズに弱くなったりします。大容量データを高速伝送するインタフェースケーブルは、ノイズの発生源かつ侵入口となっているのです。こうしたノイズの低減に簡便にして驚くほどの威力を発揮するのがクランプフィルタ(ケース付きフェライトコア)です。

高速大容量ネットワーク時代ならではのノイズ障害

高速インタフェースケーブルにより各種デジタル機器も簡単に接続、動画や音楽などの大量データも瞬時に転送できるようになりました。
しかし、高速大容量化に伴って、回線の切断や通信速度の低下、データの転送エラーといったトラブルの発生頻度も高まっています。その原因の1つとなっているのが、インタフェースケーブルなどから放射し、またそれらを通じてシステム内に侵入してくるノイズです。
デジタル信号のパルス波は、低電圧から高電圧へ、高電圧から低電圧へというめまぐるしい切り替えによって送り出されます。高速走行しているクルマは急にはUターンできないように、パルス信号の立ち上がりや立ち下り時には、勢いあまって定められた電圧値からはみだす高周波成分が生まれます。これがオーバーシュートやアンダーシュートと呼ばれる波形の乱れをつくります。またインタフェースケーブルとグランドとの間の浮遊容量(コンデンサ成分)は、方形のパルス波をクネクネと歪めてしまうリンギングと呼ばれる乱れを生み、ノイズとなってケーブルから放射されるのです。

こうしたノイズ障害からシステムを守るには、ケーブルをやたらと長くしないこと、パソコン本体やディスプレイなど、強いノイズを出す機器からケーブルを離すなどの配慮が必要です。しかし、それでもなおトラブルが発生するときは、まずインタフェースケーブルを通じたノイズの侵入を疑ってみましょう。たかがケーブルとあなどるなかれ、ネットワークシステムにおいて、ケーブルは最も長く、また最も表面積の大きな電子部品なのです。

クランプフィルタは簡便で効果的なノイズクリーナー

水道管やガス管から水やガスが漏れたら大騒ぎになりますが、ケーブルから漏れる放射ノイズは、五感では直接検知できないために、その影響がなかなか把握できません。では、空間を隔てたケーブルがなぜ、ノイズを出したり拾ったりするのでしょうか?
電流が流れる導線には放射状の電界と同心円状の磁界が発生しています。このため、ケーブルどうしの静電結合や電磁結合などにより、クロストークと呼ばれる線間結合が生じ、それらがケーブルをアンテナとして、外部に放射され、また受信してしまうのです。つまり室内を這うケーブルは電流の通路であるばかりでなく、ノイズを放射・受信するアンテナとしても作用しているのです。やっかいなことに、高周波になればなるほど、この影響は顕著になってきます。

クランプフィルタは円筒状のフェライトコアを縦に2分割して、樹脂ケースに格納した簡単構造のノイズ対策部品。パソコンと周辺機器をつなぐケーブル、ファクシミリやコピー機といったOA機器のケーブルには、コブ状の部品が取り付けられています。これもケーブル製造時に前付けされたクランプフィルタです。
ノイズの発生箇所は使用環境によってさまざまに異なるので、状況に応じた臨機応変の対処が必要となります。クランプフィルタはネットワークを構築したあとでも、ケーブルを切断することなく装着できるのが利点。使用法はきわめて簡単で、ケースを開いてケーブルをはさみ、そしてケースを閉じるだけです。

静電気などのサージノイズ対策としても効果的

クランプフィルタはコモンモードフィルタの1種です。導線を伝わる電流の伝わり方には、ディファレンシャルモードとコモンモードの2タイプがあります。信号電流はディファレンシャルモードとして伝わるのに対して、デジタル機器から電磁波として放射され、ケーブルをアンテナとして侵入してくるノイズ電流の多くはコモンモードです。

フェライトコアを用いたクランプフィルタは、見かけはサイズの大きなチップビーズのような構造をしています。ノイズ電流の周囲に同心円状に発生する磁界は、フェライトコアのトンネルを通過する際に吸収され、熱として除去されます。チップビーズはこの原理を利用して、ディファレンシャルモードのノイズ電流を吸収して熱として除去します。

一方、クランプフィルタはディファレンシャルモードである信号電流を減衰させず、コモンモードのノイズ電流だけを抑止するのが特長。巻線タイプのコモンモードフィルタとくらべて、浮遊容量や電磁的な結合が無視できるほど小さいので、ディファレンシャルモード・インピーダンスは広域にわたって低く、信号に与える影響はほとんどありません。
クランプフィルタにはフェライトならではの物性が最大限に利用されています。ふだんフェライトは磁気的な性質を表に出しませんが、外部から磁界が加わると、たちどころに目覚めて磁束を吸収する磁性セラミックス。TDKのクランプフィルタは先進の磁性材料技術を駆使、高周波ノイズだけを吸収して信号電流の波形を歪ませない最適フェライト材を使用しているため、約1GHzまで安定した周波数-インピーダンス特性を発揮するのです。TDKではケーブル外径に応じた各種タイプほか、ケーブル巻線固定タイプ(ケース内でケーブルを1巻きして固定)など、豊富な製品をシリーズ化しています。 外来ノイズに対する瞬発力の鋭さと懐の深さがTDKのクランプフィルタの持ち味。放射ノイズ対策ばかりでなく、静電気などのサージノイズによる誤動作の防止にもきわめて効果的。高速大容量ネットワークの便利さ・快適さを強力にサポートする実に重宝なノイズ対策部品です。

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