なるほどノイズ(EMC)入門

【部品編④】高音質を確保するノイズサプレッションフィルタ

音声信号は基本周波数とその整数倍の高調波からなる

一般に音の高さは周波数によって決まります。しかし、音の高さが同じでも、楽器の音色は千差万別です。これは楽器の音色には、基音の周波数ほかに、その整数倍の倍音が複雑に含まれていることによるものです。このことを発見したのは、オームの法則で知られるドイツの物理学者オームで、のちにドイツの物理学者・生理学者ヘルムホルツに受け継がれ、音響学の基礎が築かれました。

楽器の倍音に相当する基本波の整数倍の波形は、一般には高調波と呼ばれます。楽音や音声などの波形は、基本波とその整数倍の高調波に分解できることは、フランスの数学者フーリエが導出した“フーリエ級数展開”によって説明されます。一定間隔で繰り返される周期波形は、振幅が異なる多数の正弦波(sin波)の合成として表せるという理論です。逆にいえば、楽音であれ、音声であれ、オーディオ信号であれ、どんな複雑な周期波形も、基本周波数と高調波の正弦波に分解できることになります。この原理を応用したのが、FFT(高速フーリエ変換)アナライザ。測定対象となる信号波形を基本波とその高調波に分解するとともに、周波数ごとの大きさをスペクトラムとしても表示します。このため、スペクトラム・アナライザとも呼ばれます。

スマートフォンの“自家中毒”問題と“音声歪み”問題

デジタルオーディオ機器では、アナログ信号である音声信号をAD(アナログ-デジタル)変換して、0か1かのデジタル信号として記録、これをDA(デジタル-アナログ)変換して、スピーカやヘッドホンで再生します。数値化されたデジタル信号で音声信号を伝えるので、何度再生しても音質が劣化することはありません。しかし、実際には回路を通過する際に、原音にはない高調波がノイズ成分として混入して、再生時の音質を劣化させることがあります。

また、スマートフォンはデジタルオーディオプレーヤとしても利用されていますが、スマートフォンは無線通信機器でもあり、多数のアンテナを内蔵しています。多機能化とともにスマートフォンの内部回路は超過密状態となっていて、このため、無対策のままではヘッドホンやスピーカなどのオーディオラインの配線から放射される電磁ノイズが、近くに配置されているセルラーアンテナなどに干渉して受信感度の低下を起こす問題が起きるようになりました。
電子機器自らが発生する電磁ノイズよって、自らの機能に悪影響を及ぼしてしまう“自家中毒”と呼ばれる現象の一種です。しかし、その対策としてノイズフィルタを挿入すると、後述するように音質劣化という問題を引き起こしたりします。高度なデジタル技術と無線通信技術が融合したスマートフォンは、通常のデジタルオーディオ機器にはない問題をかかえているのです。

チップビーズの限界を超えたノイズサプレッションフィルタ

スマートフォンのオーディオラインの放射ノイズ対策としては、従来、チップビーズが使用されてきました。チップビーズとは、フェライト素体の中にコイルを形成した構造のEMC対策部品です。低い周波数領域においては、コイルのリアクタンス成分が機能してノイズを反射して阻止し、高い周波数領域においては、フェライトの抵抗成分がノイズを吸収して熱に変換します。

スマートフォンのスピーカーラインなどでは、通常の信号ラインよりも大電流が流れるため、抵抗成分の大きなフェライトを用いたチップビーズが使用されます。しかし、このタイプのチップビーズは、ノイズ除去に効果的でも、出力を上げるにつれ高調波成分の増加による音声歪みが大きくなるという問題をかかえています。つまり、従来のフェライト材を用いたチップビーズでは、ノイズ除去と音声歪みの低減を両立させることは困難だったのです。

フェライトは材料組成や焼成条件などにより、さまざまな特性を引き出せる無限の可能性をもつ磁性材料です。そこで、TDKでは得意のフェライト技術を駆使し、ノイズ除去特性を保ちつつ、音声の低歪み化を両立させたフェライト材を新開発。スマートフォンなどのオーディオラインのノイズ対策に最適なEMC対策部品を製品化しました。これがノイズサプレッションフィルタです。

音声歪みの問題を解消して、快適なオーディオライフをサポート

TDKのノイズサプレッションフィルタは、用途に応じて最適化した各種製品があります。主要セルラーバンドの周波数帯域で高い減衰特性をもつタイプは、スマートフォンのスピーカーラインやヘッドホンラインに挿入することで、受信感度の低下という“自家中毒”問題の改善に大きな効果が得られます。

また、スピーカーライン用に最適化したタイプは、高調波ノイズを大幅に抑制し、音声品質の確保にすぐれた効果を発揮します。スピーカーラインの音声歪みの度合は、一般にTHD+N(Total Harmonic Distortion + Noise:全高調波歪み+ノイズ)という数値で表されます。これは高調波による歪み成分およびその他のノイズ成分が、元の信号に対して、どれだけの割合を占めているかを示す数値で(単位は[%])、数値が小さいほど音質がよいことを意味します。

以下のグラフは、スマートフォンのスピーカーラインに、従来のチップビーズを挿入した場合と、ノイズサプレッションフィルタを挿入した場合の比較例です。チップビーズでは出力200mWを超えるあたりから、THD+Nの数値が急上昇しています。これは音声歪みが顕著に現れていることを意味します。一方、ノイズサプレッションフィルタを挿入した場合、出力1000mWのレベルでも、フィルタなしの場合とほぼ変わらない特性となっています。このため、ノイズサプレッションフィルタのスピーカーラインへの適用は、高調波による音声歪み対策としてきわめて有効であることがわかります。

手に触れて操作するモバイル機器では、人体からの静電気放電(ESD)によって、ICの誤動作をもたらしたりします。スマートフォンではヘッドホン端子などが静電気放電の入口となります。ノイズサプレッションフィルタとともに、ESD対策部品であるチップバリスタを併用することで、スピーカーラインをはじめとするオーディオラインのノイズ対策はより万全となります。

多機能なモバイル端末であるスマートフォンは、ノイズに対する感受性がきわめて高い電子機器です。オーディオプレーヤとしても楽しめる音声品質の確保には、ノイズサプレッションフィルタやチップバリスタなどのTDKの各種EMC対策部品が貢献しています。

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