なるほどノイズ(EMC)入門

【基礎編②】ノイズのルーツと種類、目に見えないノイズを追跡する

スマートフォンによるキャッシュレス決済、暖房や照明を含む電化製品の消費エネルギーを最適化するスマートハウス、自動車のEV化と自動運転技術、さらにAI搭載画像認識技術による自動検査装置やロボットなど、私たちを取り巻く環境は急速に進化しています。その技術を支えているのが、大量の電気信号の伝達です。これから、ますます高度な技術の誕生が予測され、それに比例して高速大容量の電気信号の伝達が必要になってきます。さらにその信号は、高い安全性と信頼性が確保されたものでなければなりません。
実は電気信号もノイズも同じ電磁エネルギーです。エレクトロニクスライフが便利になればなるほど、電子機器にはより一層のノイズ対策が必要になります。

ノイズの2タイプ——伝導ノイズと放射ノイズ

身の回りの電気・電子機器は多かれ少なかれノイズの発生源となっています。目には見えないノイズは、熱と似たところがあります。よく知られているように、熱の移動には伝導・対流・輻射(放射)の3要素があります。魔法びんの内部が真空2重構造となっているのは、空気による熱の伝導と対流を防ぐためです。しかし、輻射熱は電磁波(赤外線)なので、真空にしても遮断することができません。そこで、ガラスの裏面に銀メッキをほどこし、赤外線を反射させて断熱効果を高めています。
電磁エネルギーであるノイズもまた、その伝わり方によって伝導ノイズと放射ノイズに大別されます。伝導ノイズとは電源線や信号線、プリント基板の回路パターンなどを通じて、信号と一緒に伝わるノイズのこと。放射ノイズとは空間を不要電磁波として飛来するノイズのことです。
伝導ノイズは侵入経路が比較的はっきりしているものの、信号と同じ姿をしているので識別が困難です。一般に電気信号は電圧変化のパターンとして伝送されますが、ノイズ成分もこのパターンの一部となって電気信号に相乗りしてくるからです。

基板とアースとの静電結合や、配線間の電磁結合がノイズの伝搬経路となる。また、基板間に電位差があると、大きな電流ループが生まれて、ノイズの伝搬経路になる。さらに、伝導ノイズが放射ノイズに変身したり、放射ノイズが伝導ノイズに変身したりする。

パソコン内部は不要電磁波で充満している

伝導ノイズよりもとらえどころがないのは放射ノイズです。放射ノイズはケーブルでつながれていない他の電子機器にもスキを見つけて侵入し、システム内ノイズさらにはシステム間ノイズとして被害を広げます。高周波電流が流れる回路では、配線のインダクタンスなどによってノイズとなる不要電磁波が発生します。電磁波の放射量は周波数の2乗に比例して増大するため、クロック周波数がGHz領域にまで及ぶパソコンなどは、放射ノイズの主要な発生源の1つとなっています。
前号でもご紹介したように、(1)シールド(2)反射(3)バイパス(4)吸収は、ノイズ対策の基本手法。パソコン本体を金属筐体(きょうたい)で覆うのは、不要電磁波の漏洩を防ぐためです。しかし、CDやDVDなどの取り出し口、内部の発熱を外に逃がすための通気口、金属板の継ぎ目などの"窓"がいくつもあり、そこから不要電磁波が漏れ出てきます。また、周辺機器を結ぶケーブルや、ゆるんだビス1本なども、不要電磁波を放出するアンテナになったりします。 電気信号とノイズは本質的に同じもの。発生源で対策をほどこしておかないと取り返しがつかなくなります。「泥縄(泥棒捕らえてから縄をなう)」的なノイズ対策は、「泥棒に追い銭」のようなもので、かえってノイズを増加させたりします。

発生ノイズと侵入ノイズの両立を図るのがEMC

静電結合や電磁結合によってもノイズは拡大します。電流が流れる導体の近くに他の導体があると、目に見えないコンデンサ(浮遊容量)が生じて電圧が誘起されます。これを静電結合といいます。高周波電流が流れると、それに伴って導体にも電圧変化が起きるので、放射ノイズや伝導ノイズとなって機器に悪影響を与えます。

電磁結合は磁界による誘導現象です。交流が流れる回路のそばに別の回路があると、発生する磁界の変化によって電流が流れます。これはファラデーの電磁誘導の法則によるものでトランスと同じ原理です。電磁結合によって誘起されるノイズの電圧は、磁界の時間的変動が激しいほど、両回路のループ面積が大きいほど、また両回路が接近するほど大きくなります。プリント基板を結ぶ導線にツイストペア線(より線)が使われるのは、導線から発生する磁界の影響を低減するためのもの。ツイストペアにすると、小さな縄目のループから発生する磁界が交互に逆向きとなるので、磁界が相殺しあって放射ノイズを低減できるのです。

電界の変化は磁界を発生し、磁界の変化は電界を発生する

リング状の電界と磁界が交互に連なり、空間を伝わるのが電磁波

回路素子が高密度に集積されている電子機器では、静電結合と電磁結合が複雑に絡み合い、ラインの信号が他のラインに侵入しやすくなります。これをクロストーク(線間結合)といい、電子機器の小型化とともに、回路基板上のノイズ問題も急増するようになりました。ノイズの影響を低減するためにシールド線が多用されます。確かにシールド線は静電結合にも電磁結合にも有効ですが、それ以前に電圧・電流変動の大きな導線を遠ざけたり、導線を並行させず交差させるなど、回路の配置上の工夫も重要になります。
電子機器がノイズと無縁であることは不可能です。だからこそ、発生ノイズ対策と侵入ノイズ対策の双方の両立を図るEMCという考え方がますます重要になってくるのです。

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