電気と磁気の?館

No.12 やっかいな静電気も使い方しだい

びっくりするような知らせや事件のことをたとえて、「青天の霹靂(へきれき)」といいます。霹靂とは雷が落ちたときの激しい音=雷鳴のこと。雷は電気現象であることはよく知られていますが、発生メカニズムは詳しくは解明されていません。プラスチックなどの摩擦で生じる“パチパチくん(静電気)”も、いわば小さな雷です。身近な製品には静電気をたくみに利用したものがあります。

電気(electricity)はなぜ“電気”と呼ばれるのか

雷が電気であることを凧揚げ実験で証明したのは18世紀アメリカのベンジャミン・フランクリン(1752年)。ライデンびん(蓄電器)の発明(1745-46年)によって、当時、摩擦電気の研究がさかんになり、ライデンびんの電極に発する火花や電撃は、雷光(稲光)や落雷のショックと同じものではないかと考えられるようになったからです。そこで、フランクリンは尖った針金をつけた凧をつくり、雷が発生しそうな天候を見計らい、息子を連れて空に揚げる実験をおこないました。彼は感電の危険性を知っていたようで、凧糸には濡れやすい麻糸を使って金属製の鍵をぶらさげ、そこから濡れにくい絹糸を分岐させて手に持ったようです(雨のときは濡れないように屋根の下に入りました)。金属製の鍵からライデンびんに移された電気は、摩擦電気と変わらないものであるため、雷は空中の電気によるものであることが証明されたのです。

フランクリンの凧揚げ実験

フランクリンの実験はすぐにヨーロッパに伝えられ、各地で追試がおこなわれました。しかし、ロシアのリヒマンは実験最中に雷に打たれて感電死しています。雷が発生しそうな天候のもとでの凧揚げをしたり、金属製のものを高く掲げたりするのは、きわめて危険なので絶対にしてはいけません! 雷雲がまだ遠くにあるときでも、上空の大気はすでに電気を帯びていることを知っておきましょう。

 一般に雷雲の雲頂にはプラス、雲底にはマイナスの電荷が分布します。気流の中での摩擦により、上昇する小さな雲粒はプラス、落下する大きなひょう(氷粒)はマイナスに荷電するからです。ところで、面白いことに中国ではずっと昔から、雷は天空の“陰の気”と“陽の気”が激しく出会って生じる現象と考えられていました。中国最古の字引『説文解字』にも、「陰陽激燿(げきよう)するなり」とあります。 「電」という字は、雨と申を合わせたもので、これは雨雲の下から雷光が走っているようすを表したものです。といっても科学的に電気現象が解明されていたわけではありません。何でも陰と陽の二元に分けて考える陰陽思想は、電気現象においてうまく符合したため、のちに西洋のエレクトリシティ(electricity)という言葉に「電気」という訳語を当てたのです。

静電式コピー機の元祖ゼログラフィ

科学・技術の博物館などでは、バンデグラーフ起電機という静電高圧発生装置が置かれ、模擬的な雷のデモンストレーションが行なわれたりします。これは江戸時代に平賀源内や橋本宗吉らが製作した“エレキテル”を巨大にしたような装置。エレキテルは手回しで円筒ガラスを摩擦して静電気を発生させ、ライデンびんに電荷を蓄えますが、バンデグラーフ起電機はモータにより回転するベルトに、コロナ放電から発生する電荷をたえず供給し、上部の金属球(中空)に蓄電する装置。ライデンびんでは放電は一瞬に終わってしまいますが、バンデグラーフ起電機は持続的な放電が可能です。このため近くに置かれた電極との間で走る雷光のような放電火花を観察することができます。

バンデグラーフ起電機のしくみ

身近な電気・電子機器にも、静電気をたくみに利用したものがあります。その代表例は電子コピー機(静電式コピー機)やレーザプリンタ。電子コピー機は1940年ころアメリカのカールソンが考案したゼログラフィが元祖。ゼログラフィとはギリシア語の“乾いた”を意味するゼロスと、“書く”を意味するグラフォスを組み合わせた造語です。インクのような湿式の印字材料を使うのではなく、乾いたトナーをインクがわりに使うため乾式コピーとして分類されます。

静電式コピー機の基本原理を簡単にご説明します。まず、チャージャー(高圧によるコロナ放電の発生装置)によりプラスに帯電させた感光ドラムに、原稿から反射された光を当てると、その個所が電気を通す良導体となり、プラス電荷はアースされます。このため、光の当たらない部分の電荷が原稿の文字や絵柄の潜像として残ります。ここにキャリア(フェライト粉や鉄粉)によって運ばれたトナー(マイナスに帯電)が送られると、クーロン力に引かれてトナーは潜像部に付着します。このトナーを紙に転写し、定着するのがゼログラフィのしくみ。レーザプリンタの原理もこれと基本的に同じです。ただ、レーザプリンタは高速回転するポリゴンミラーにより、レーザ光を反射させて原稿をスキャンします。このため、高速・高解像度のページプリンタが実現します。

静電式コピーの基本原理
レーザープリンタの露光のしくみ

人工植毛や自動車塗装にも静電気が利用されている

静電気は人工植毛にもたくみに利用されています。人工植毛といっても髪の毛のことではなく、カーペットや人工芝など、ベースとなる台地に合成繊維などのパイル材料を接着して植毛する技術です。原理そのものはすこぶる単純。プラスとマイナスの電極板を向かい合わせに据え、プラス側にパイル材料を置くと、パイル材料はプラスに帯電して、クーロン力によりマイナス電極側に飛び込んでいきます。マイナス電極側には接着剤が塗られた台地が置かれているため、飛び込んだパイルが接着し、まるで“濡れ手で粟”のように、どんどん植毛されるというしくみです。カーペットや人工芝ばかりでなく、サンドペーパーの製造などにも利用されています。

静電植毛の原理

これと同じ原理によるのが工業製品や家電機器などの塗装に広く採用されている静電式の粉体塗装(パウダーコーティング)です。塗装したい製品をマイナス(またはプラス)に帯電、プラス(またはマイナス)に帯電させた粉末状の微細な塗料を霧化したり、ガンで吹き付け、静電気のクーロン力により付着させたあと、加熱して焼き付ける方式。複雑な形状の製品でも、裏側にまで回りこみ、くまなく塗装できるとともに、床に落ちた粉末塗料は回収して再利用できるのが利点。また、水や有機溶媒を使わないので、廃液による環境汚染やVOC(揮発性有機化合物)による大気汚染リスク もなく、近年は自動車ボディの塗装などにも採用されるようになっています。塗膜の厚みが一定で塗装品質が高く、仕上がりが美しいのも特長です。

静電粉体塗装の工程

「琥珀(コハク)塵(ちり)を吸うも穢(けが)れを吸わず」という古くからの中国の格言があります。電気を意味するエレクトリシティの語源はギリシア語のコハク(エレクトロン)。松ヤニなどの樹脂が化石化したコハクは、摩擦による静電気でチリなどを引き寄せる性質があることは、西洋でも東洋でも昔から知られていました。静電気は何かとやっかいな問題を起こしますが、身の回りの製品にずいぶんと役立てられているのです。火災時に発生する煙を減らす消煙装置、室内空気を浄化する集塵機などにも利用されています。

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