TDKのコアテクノロジー

Vol.6
「温度センサ技術」とNTCサーミスタ

2021.06.09

温度センサにはさまざまな種類がありますが、エアコン、冷蔵庫、電子ジャーなどの家電機器ほか、自動車や産業機器、医療機器、パソコンやスマートフォンなどのICT機器において多用されているのは、特殊な半導体セラミックスをセンサ素子とするNTCサーミスタです。温度の測定だけでなく、回路の安定動作などにも活躍しているNTCサーミスタの原理と応用について解説します。

用途に応じて使用される多種多様な温度センサ

温度センサのルーツは、16世紀末にガリレイが考案したガラス球の温度計(空気の膨張・収縮が原理)といわれています。これをもとに、17世紀にはアルコール温度計や水銀温度計が考案され、18世紀には華氏温度(℉)や摂氏温度(℃)という温度単位が設けられました。今日、実用化されている温度センサは、19世紀以降に生まれたもので、温度変化を電気現象と関連させることで、低温から高温まで精密な温度計測が可能になりました。温度センサの主な用途を以下に示します。

温度センサは、測定する対象にセンサ素子を接触させて、熱平衡に達した時点で検知する「接触型」と、測定対象に接触させないで検知する「非接触型」に分けられます。
温度センサの身近な応用製品である体温計にも、接触型と非接触型があります。かつて使われていた水銀体温計や、それにかわって普及した電子体温計は、腋(わき)や舌下などにはさんで温度を測定する接触型です。
一方、病院や空港などで発熱チェック用に、顔や手にかざして測定するのは非接触型。人体や物体が放射する赤外線の強度は、その表面温度と関係していることを利用したもので、放射温度計というタイプです。

接触型の温度センサのうち、熱電対(ねつでんつい)とは、2種類の金属の両端を接合し、その接合部に温度差をつくると、電圧(熱起電力)が生じるというゼーベック効果を利用したもの。また、金属測温抵抗体とは、温度によって金属(白金など)の電気抵抗が変化する性質を利用したもので、金属のかわりに半導体セラミックスをセンサ素子として用いたものがNTCサーミスタです。

サーミスタとは「温度に敏感な抵抗体」の英略語

サーミスタ(Thermistor)とは、「温度に敏感な抵抗体(Thermally Sensitive Resistor)」を意味する英語からの造語です。
1930年代、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)などの複合酸化物(半導体セラミックス)が、特異な抵抗-温度特性(温度による抵抗値の変化)を示すことが確認され、応用に向けた材料探しが進められるなかで、サーミスタという用語が使われるようになりました。
サーミスタには、大きく分けて温度上昇とともに抵抗値が減少する負特性(NTC)タイプと、温度上昇とともに電気抵抗が増加する正特性(PTC)タイプがあり、それぞれNTCサーミスタ、PTCサーミスタと呼ばれています。一般的に温度測定に使われるのはNTCサーミスタのほうで、氷点下から数100℃の高温まで測定でき、小型で高精度・高感度、電子回路とも相性がよいため、家電機器や産業機器、車載機器などにおいて、温度センサの主流となっています。電子体温計の先端部に格納されているのもNTCサーミスタです。

サーミスタ特性は1833年、ファラデーにより硫化銀において初めて発見されたが、半導体セラミックスによる温度センサとして実用化されたのは1940年代。

家電機器や産業機器、医療機器ほか、車載機器にも多用

フェライトなどのエレクトロセラミックスで培った素材技術をベースに、アセンブリ技術、積層技術、生産技術(製造機械)など、さまざまなコアテクノロジーを結集して製造されているのがTDKのNTCサーミスタです。
NTCサーミスタの素体(特殊な半導体セラミックス)は、通常のセラミックスと同様に、原料を混合・成型・焼成して製造されます。このサーミスタ素体を小さく切断して電極ではさんだのが、NTCサーミスタ素子の基本構造です。電極にリード線を設けて樹脂やガラスで封止したタイプのほか、プリント基板に表面実装できるチップNTCサーミスタなどがあります。
冷蔵庫やエアコンなどでは、耐環境性を高めるため、ガラス封止NTCサーミスタを樹脂モールドしたアセンブリ品が使われます。このタイプは自動車の温度センサ(水温センサ、AT油温センサ、排気温センサ、カーエアコンなど)としても多用されています。

NTCサーミスタが高感度センサとなる理由

半導体セラミックスを用いたNTCサーミスタと金属測温抵抗体は、ともに温度による電気抵抗変化を原理としますが、どこが違うのでしょうか。NTCサーミスタと一般的な金属の温度特性の傾向を下図に示します。金属は温度の上昇とともに電気抵抗がゆっくり上昇していきますが、NTCサーミスタは急激(指数関数的)に減少していくのがわかります。これはNTCサーミスタが、きわめて感度の高い温度センサとして利用できることを意味します。

温度上昇とともに、金属の抵抗値は徐々に増加するのに対して、NTCサーミスタは急激に減少する。ただし、抵抗値の変化は直線的(リニア)ではないので、正確な温度測定には補正が必要である。

ある温度における抵抗値の変化率を表したものを温度係数(α)といいます。代表的な金属測温抵抗体に使われるのは白金(Pt)です。0℃で100Ωの白金は、温度上昇とともに抵抗値が増加し、100℃では約138Ωとなるため、1℃あたりの抵抗変化率すなわち温度係数は約0.38%となります。これに対して、NTCサーミスタの温度係数は、白金の約10倍の-3%~-5%にも及びます(マイナス記号がついているのは、温度上昇とともに抵抗値が減少する負特性のため)。しかも、NTCサーミスタは量産性や加工性にもすぐれ、回路も簡単にできるため、汎用的な温度センサの主流として多用されているのです。

金属とNTCサーミスタの電気伝導の違い

では、こうしたNTCサーミスタの特性は、どこから生まれるのでしょうか。
金属は電気伝導率が高いことが特長で、ガラスやプラスチックなどの絶縁体(不導体)に対して導体と呼ばれます。これは金属結晶中で原子に束縛されずに動き回ることのできる自由電子によるものです。また、自由電子は熱伝導の担い手にもなっているため、金属は絶縁体よりも熱を伝えやすい性質もあわせもちます。

自由電子は結晶格子の間を比較的自由に動き回るので、高い電気伝導率を示す。しかし、温度上昇による結晶格子の熱振動は、自由電子の伝達のさまたげになる。

金属が温度上昇とともに電気抵抗が増していくのは、結晶格子が熱によって振動し、自由電子の動きがさまたげられるからです。一方、セラミックスのような酸化物の結晶は、イオン結合や共有結合からなり、金属のような自由電子をほとんどもたないため、電気や熱の伝導率も低く、絶縁体に近い性質を示します。
ただし、全く電気を通さないわけではなく、材料組成によっては導体と絶縁体の中間の半導体としての性質を示すようになります。
その電気伝導のしくみについては、ホッピング伝導理論(金属イオン間をピョンピョンと渡り歩く電子が、温度上昇とともに増える)など諸説ありますが、一般には固体物理学のバンド理論によって説明されています(下図)。

結晶中の多数の電子は、あるエネルギー帯(エネルギーバンド)におさまっていると近似できます。電子が充満している荷電子帯と、空っぽの伝導帯の隔たり(禁制帯:バンドギャップ)が大きい場合は、電子は移動できず絶縁体となります。金属はこの隔たりがないに等しく、伝導帯に一部の電子が存在するため導体となります。
半導体はバンドギャップが狭いので、熱励起などにより電子の動きが活発になるにつれ、バンドギャップを飛び越えて伝導帯に移る電子の数が増え、導電性をもつようになります。このため、NTCサーミスタにおいては、温度上昇とともに抵抗値が下がる負特性(NTC)を示すのです。

温度補償用にも活躍する積層チップNTCサーミスタ

NTCサーミスタは温度計測のほかに、温度補償(temperature compensation)用としても重要な電子部品です。温度補償とは、温度によって特性が変動する電子部品や電子回路に対して、その変動を補正するように作用させることをいいます。たとえば、ICを用いた電子回路は、温度変化によって動作が不安定になります。そこで、温度上昇とともに抵抗値が下がる性質をもつNTCサーミスタを回路に組み込むことで、安定した回路動作を維持します。
下図は、NTCサーミスタ(RTH)と固定抵抗(R)を直列接続した温度補償用の基本回路例です。NTCサーミスタ(RTH)と固定抵抗(R)は分圧回路となっていて、出力電圧(VOUT)は、入力電圧(VIN)×(R/RTH+R)という式で求められます。
測温対象(ICなど)が発熱すると、近接配置されたNTCサーミスタの温度が上昇して電気抵抗値が下がるので、それに応じて出力電圧(VOUT)は上がります。この変化をマイコンなどに送って回路を安定化させます。

NTCサーミスタは測温対象の近くに配置され、熱伝導により抵抗値が変化すると、それに応じて出力電圧が変化する。

たとえば、LCD(液晶ディスプレイ)の液晶は温度依存性があり、温度によってコントラストが変化します。そこで、NTCサーミスタを用いた分圧回路で電圧制御してコントラストを一定に保ちます。

小型化要求に応えて開発された積層チップNTCサーミスタ

ICや回路の動作を安定させる温度補償用としては、プリント基板に表面実装できる小型チップタイプのNTCサーミスタが使われます。チップNTCサーミスタは、当初はサーミスタ素体に端子電極を設けた単板型が用いられてきましたが、高まる小型化要求に応えるために内部電極とサーミスタ素体を交互に重ねる積層型が開発されました。
下図は積層チップNTCサーミスタの基本構造です。積層セラミックチップコンデンサ(MLCC)と同様のシート工法により、サーミスタ素体と内部電極を交互に積層して端子電極を設けた構造となっています。

しかし、構造も製法も似ているとはいえ、積層チップNTCサーミスタは、積層セラミックチップコンデンサ(MLCC)と異なる困難な技術課題をかかえています。必要な特性を実現するために、材料組成の制御はもちろん、内部電極数や電極間距離、電極の重なり面積などを微妙に調整する必要があるからです。

TDKはコアテクノロジーである高度な材料設計技術、微細構造制御、積層セラミック技術、焼成技術などにより、こうした問題を克服し、サイズや特性、使用温度範囲など、用途に応じた多彩な製品をラインアップ。はんだ接合が困難なアプリケーション向けに、導電性接着剤対応の積層チップNTCサーミスタも新開発しました。家電機器、産業機器、医療機器、車載機器、さらにはIoTデバイスやウェアラブルデバイスなど、活躍の場はますます拡大しています。

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

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