コンデンサ・ワールド

第1回 エレクトロニクスとコンデンサ

エレクトロニクスとコンデンサ

電子機器は多種多様な電子部品によって構成されています。なかでも重要な働きをしているのが抵抗、インダクタ(コイル)とともに3大受動部品と呼ばれるコンデンサ。現在、全世界で生産されるコンデンサは年間約1兆個にも及び、その80%を積層セラミックチップコンデンサが占め、さらにその90%が日本のメーカーによって生産されています。コンデンサにはいろいろなタイプがありますが、今日のエレクトロニクス社会を支えるコンデンサの主役は積層セラミックチップコンデンサ。TDKは積層セラミックチップコンデンサの生産においても世界屈指のメーカーです。

電子機器の小型化を推進した積層セラミックチップコンデンサ

この約30年間において、積層セラミックチップコンデンサの体積は数100分の1になりました。積層セラミックチップコンデンサの驚異的な小型化なくして、今日のモバイル時代は到来しなかったといっても過言ではありません。たとえば携帯電話には約200〜300個ものコンデンサが使われています。1980年代半ばのポータブル式電話は肩から吊るす重くて大きなショルダー型でしたが、積層セラミックチップコンデンサがリードした受動部品の小型化により、現代の携帯電話は重さ100g前後のハンディで多機能なマルチメディア端末となりました。積層セラミックチップコンデンサに代表される電子部品の小型化革命は、私たちのビジネスや暮らしを一変させてしまったのです。

エレクトロンとはギリシャ語の琥珀(コハク)

発見・発明の種は身近な現象にひそんでいるものです。歴史をひもとくと電気学のルーツは、はるか紀元前の昔、宝飾品であるコハク(琥珀)を布などでこすると、軽いチリや灰を吸い寄せる現象に注目したことにたどりつきます。これはプラスチックの下敷をこすって頭上にかざすと髪の毛が逆立つのと同じく、摩擦電気(静電気)による現象です。コハクは松ヤニのような樹脂が地中で化石となったもの。いわば天然のプラスチックであり、摩擦電気が発生しやすい物質なのです。
摩擦電気が自然科学の対象となっていくのはルネサンス以降です。『磁石論』(1600年)を著し、地球が巨大磁石であることを示したイギリスのギルバートは、摩擦電気にも関心を寄せ、コハクのみならずイオウや水晶、毛皮などにも摩擦電気が生じることを記しています。ギルバートは摩擦によってコハクが電気を帯びる性質をエレクトリカと名づけました。ここから電気=エレクトリシティ(electricity)という用語が生まれたわけですが、その語源はコハクを意味するギリシャ語のエレクトロンです。中国にも「琥珀(コハク)塵(ちり)を吸うも、穢(けが)れを吸わず」という古い格言があります。洋の東西を問わず、コハクの摩擦電気は不思議な現象として人々の心をとらえていたようです。

摩擦電気の研究から始まった電気学

摩擦電気を効率よく発生させる装置を考案したのは、17世紀ドイツのマグデブルグ市長でもあったゲーリッケです(マグデブルグ半球による真空実験でも知られる科学者)。彼は大きなイオウ(硫黄)球をつくり、それを摩擦しながら回転させる仕組の摩擦起電機により、さまざまな実験を試みました。
18世紀は摩擦電気の研究が急速に進んだ時代です。イギリスのグレーは物質には電気を伝える導体と、伝えない不導体があることを明らかにしました。また、フランスのデュ・フェイは、ガラスに発生する摩擦電気と樹脂に発生する摩擦電気の振る舞いが違うことから、電気には2種類あり、同種が反発しあい、異種が吸引しあうことを発見しました(のちにガラス電気はプラス電気、樹脂電気はマイナス電気と呼ばれるようになりました)。

日本ではコンデンサ、英米ではキャパシタ

コンデンサの元祖といえる蓄電器は、1745〜46年にかけて、ドイツのクライストやオランダのムッセンブルクによって考案されたライデンびん(蓄電びん)です。ほどなくアメリカのフランクリンは、有名な凧揚げ実験により、雷は摩擦電気の火花放電と同じ電気現象であることを実証しましたが、この実験にもライデンびんが利用されました。
イタリアでは電気現象に深い関心を寄せていたボルタが、摩擦によって発生させた電気を持ち運べる電気盆という道具を製作し、さらに摩擦電気を溜めこむことのできる“コンデンサトレ”という蓄電器を考案しました。これが電子部品のコンデンサの語源です。濃縮牛乳をコンデンスミルクというように、コンデンサとは“蓄電器”というより“凝縮器”という意味です。ちなみに冷蔵庫で冷却ガスを液化する装置や、集光器などもコンデンサと呼ばれます。まぎらわしいので、英米では電子部品のコンデンサは一般にキャパシタと呼ばれています。
フランクリンの凧揚げ実験のころ、日本の長崎にもオランダから摩擦起電機がもたらされ、エレキテルの名で知られるようになりました。発明の才にたけていた平賀源内がそれを入手して、復元製作したことはよく知られています。
こうして電気学の幕は切って落とされましたが、当時、蓄電された摩擦電気は、見世物や病気治療(電気ショック療法)などに利用されるだけでした。電気機器の部品として製造・利用されるようになるのは19世紀以降のことです。

電気分極と磁気分極はよく似た現象

電子部品のコンデンサの原理としくみを知るうえで、格好の教材となるのはライデンびんです。ライデンびんにガラスびんが使われたのは、当初、電気は水に蓄えられると考えられていたからで、のちに改良されて、ガラスびんの内壁と外壁に金属箔を貼ったライデンびんとなりました。ライデンびんの構造を平面に展開すると、2枚の電極板が向かい合ったコンデンサの基本構造となります。
ボルタによって電池が発明されると、摩擦によらずとも、電池につなぐだけでコンデンサに電気が蓄えられることも知られるようになりました。原子はプラス電荷をもつ原子核と、その周囲をまわるマイナス電荷の電子によって構成されています。通常、物質はプラスとマイナスが相殺されて電気的に中性となっていますが、電池などで電位が加わると、絶縁体の両側にプラス電荷とマイナス電荷が誘起されます。これを誘電分極といい、絶縁体はその意味で誘電体とも呼ばれます。この現象は磁石が鉄を引き寄せるのとよく似ています。磁石を近づけると、鉄はN極とS極に磁気分極して磁石に引きつけられるように、帯電体を近づけると物質は誘電分極を起こして引きつけられます。

積層セラミックチップコンデンサの民生利用は日本で始まった

コンデンサが電荷を蓄える能力のことを静電容量といいます。コンデンサは電極面積が広いほど、電極間距離が狭いほど、静電容量が大きくなります。また、電極間に誘電体をはさむことによっても静電容量は増加します。しかし、電子部品としての利用となると、電極面積をやたらに広げるわけにはいきません。そこで、広い電極面積を確保しながらコンパクト化を図るために、主に2つの手法がとられます。1つは電極と誘電体を巻物のようにくるくると巻きたたむ方法。もう1つは、電極と誘電体をサンドイッチ状に重ねて積層構造にすることです。
コンデンサの誘電体としては、マイカ(雲母)の薄片や紙などが古くから用いられてきましたが、1930年代に酸化チタンを誘電体とするコンデンサが登場し、1940年代にはきわめて誘電率の高いチタン酸バリウムも発見されました。これらの誘電体の薄層と電極を多数積み重ねて製造されるのが積層セラミックチップコンデンサです。アメリカで開発され、当初は宇宙機器などの特殊用途で使われるだけでしたが、1977年、日本で民生機器用(薄型ポケットラジオ)の電子部品として世界で初めて量産化されました。以来、材料や工法のブレイクスルーにより飛躍的な小型化と大容量化を達成し、電子機器の小型・軽量・高機能化に大きく貢献することになったのです。
以上が摩擦電気の研究に始まるコンデンサの歴史のあらましです。コンデンサには電荷を蓄えるという機能のほか、直流を遮断し交流を通過させるという重要な働きがあります。これらが電子機器の回路の中でどのように活用されているかは、次号以降で順次ご紹介いたします。

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