#03
『物理チャレンジ2019』
開催レポート
世界の挑戦権を手にした
「物理」大好き中・高校生は!?
Challengingfortomorrow
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#03
世界への挑戦権を手にした
「物理」大好き中・高校生は!?
2019年8月17(土)〜20日(火)、東京理科大学野田キャンパスにて「物理チャレンジ2019」の「第2チャレンジ(全国大会)」が開催されました。全国から選抜された100名の中・高校生が三泊四日の合宿で「物理の実力」を競うイベントです。
この『物理チャレンジ』は『国際物理オリンピック』へ挑む中・高校生を選抜するイベントでもあります。
熱い戦いが繰り広げられた4日間。
戦いを制し、世界に挑戦する栄冠はどの生徒の頭上に輝いたのでしょうか!?
ABOUT
REPORT
『物理チャレンジ2019』とは?
全国の理系生徒を熱狂させる『物理チャレンジ』の魅力とは?
物理の話は宇宙人にだって通じるはず!
物理学は、自然界の多様な現象の中にある「真の法則」を見いだそうという学問です。数学の素養が必要なことはもちろんですが、時には実験を行い自分の仮説が正しいかどうかを検証することが求められます。
物理の魅力は、「発見した法則」がこの宇宙を貫くものであるという点にあります。例えば、もし宇宙人に遭遇しても、同じ宇宙に生きるのであれば、少なくとも物理の法則についての話は共通でできるはずなのです。
この学問は、多くの科学の基礎になります。また、科学技術が物理で得られた知見を基にしていることはいうまでもありません。そのため、物理に秀でた若者は世界中で求められています。
若い才能を見いだせ!
物理が好きで、その才能を発揮する若者を見いだし、後押しをしようというイベント
が『物理チャレンジ』です。
今回で第15回を迎えるこのイベントは、中生徒・中・高校生を中心に20歳未満の、大学などの高等機関に入学する前の若者を対象に、物理の実力を問うコンテストとして開催されています。
また、『物理チャレンジ』は、『世界物理オリンピック』という世界規模で若き頭脳が戦う祭典への登竜門でもあります。物理チャレンジで優秀な成績を修めた生徒は、世界へ挑む日本代表候補に選抜されます。
今回の『物理チャレンジ2019 全国大会』では、参加申込者1,388人の中から第1チャレンジを突破した100人の中高生たちが、更なる高みを目指して第2チャレンジの熱い戦いが繰り広げられました。第2チャレンジの様子や表彰式の模様をお伝えします。
世界規模で開催される『国際物理オリンピック』は参加国が80カ国を超える大きなコンテストですが、正直なところ日本は出遅れています。
『国際物理オリンピック』の歴史は古く、第1回大会が1967年に開かれています。しかし、日本は2005年の国際物理年に中・高校生を対象とする『物理チャレンジ』が初開催され、そこで選抜された日本代表選手が2006年の世界大会に初めて参加しました。
世界大会で優秀な成績を修める国はアジア諸国が多く、韓国、中国、台湾はTop5に名を連ねる常連です。日本はというと十番目ぐらいのレベルで、現状ではもっと努力が必要です。このような背景の中で、『物理チャレンジ』の存在意義は、とても重要です。大学入試とは異なるクリエイティブな問題を解くことで、物理の本質を学んでもらうことを期待しています。実際に「論理的に考えていけば必ず解ける」のが特徴で、ぜひ多くの中・高校生にチャレンジしてほしいと思っています。
長谷川修司理事長
NPO 物理オリンピック日本委員会
「物理チャレンジ2019」
第2チャレンジの内容
第2チャレンジでは、三泊四日の合宿形式で「実験問題」と「理論問題」に挑みます。
『物理チャレンジ』の大きな特徴は「実験問題」があることです。参加者は、実際に素材、実験器具を用いて課題をクリアすることに挑みます。
物理には大きく分けて「実験」「理論」がありますが、『物理チャレンジ』はその両方についての能力を測るものなのです。 また、実験問題、理論問題の試験時間はそれぞれなんと5時間! 参加生徒は、この長い時間を使って「クリエイティブな思考を必要とする課題」に取り組みます。
CONTEST
実験問題コンテスト・理論問題コンテスト
〔写真〕一人ずつブースに入って理論問題に挑む参加者たち。時間はただただ静かに流れていきますが、頭はフル回転して熱く戦っているのです。
『物理チャレンジ』の実験問題。今回は、「デジタルマルチメ-ター」を実際に使って電気抵抗を測定する課題が出ました。
実験問題、理論問題について教えてください。
中・高校生たちがクリエイティブに考えるかどうかを問う「課題」は、実は出題する側も大変です。『物理チャレンジ』では、総勢100名ほどの物理学の研究者・教師が課題作成を担当していらっしゃいますが、年ごとに「良い問題」であるよう工夫を凝らしているとのことです。
問題を考える側は2つのグループに分かれます。一つは実験手順や方法を問題文に厳密に書いて、生徒が求めたとおりの回答をするかを見るタイプ。これは採点も比較的楽です。もう一つは私も携わっていますが、なるべく問題を曖昧に書いて、なるべくたくさん考えさせるタイプ。道具はたくさん置いておくけど、さあどうしたらいいんでしょうか? と問うのです(笑)。どう考えたかが大事なのです。私としてはそれを問う問題を作ったつもりです。
近藤泰洋先生
今回出題したのは「応力」の問題ですが、これは高校では習わない。日常的にはあちこちで見るものなのですが、「質点の力学」で見ていると気付かないのです。物理学というのは面白い学問で、高校でいろんな法則を習いますが、その法則を日常生活に当てはめると、「あれっ?」と思うことがたくさんある。物理屋はいろんな角度から見て何らかの回答を出すのです。このいろんな角度から見ることの重要性を、出題者からのメッセージとしたつもりです。
波田野彰先生
出題者が百戦錬磨の物理学のエキスパートですから、実験問題、理論問題のどちらもかなりの難題だったようです。しかし、受けて立つ生徒も優秀な中・高校生!「大丈夫だと思う」など実に頼もしい声も聞けました。ただし、生徒のコメントにもありますが、『物理チャレンジ』で課されるのは、高校の試験問題とは全く違うタイプの問題なのです。
参加した生徒たちの声
LIVE
物理の楽しさを体感する!
「フィジックスライブ」
8月18日(日)・合宿2日目、理論問題が終了し、
中・高校生たちもほっと一息ついた午後「フィジックスライブ」が行われました。
これは、『物理チャレンジ』に協賛する企業や大学の研究室が物理の学術的な側面だけではなく、実際に社会でどのように生かされているかを紹介し、物理の面白さを体感してもらうための場となっています。
中・高校生にとっては初めての経験の人も多く、最新技術、それを生かした製品が展示される中、興味津々で各ブースをまわっていました。
出展者側にとっても、日本の未来を担う若者たちに最新技術を体感してもらうことには大きな意味があります。各ブースに立った担当者の説明には自然と熱がこもっていました。
次々ブースを訪れ熱心に説明を聞き入る中・高校生たち。体験しているときの彼らの自然な驚きの表情が印象的。
TDKブースでは「Ag積層型 透明電磁フィルム」「全固定リチウムイオン二次電池」「PiezoHaptアクチュエーター」など最新技術のデモンストレーションが行われました。
TDKブースで特に人気があったのが、TDK製の「角度センサー」を用いたシーソーゲーム。人が実際にボードに乗ると、その動きに合わせて画面上のシーソーが上下に動きます。うまく下までボールを運ぶことができればクリア!
〔写真〕佐藤さん
〔 TDK 電子部品営業本部 佐藤直義さんのコメント〕
この『物理チャレンジ』に参加している中・高校生の皆さんは、これからの日本を背負う頭脳を持った人たちです。その人たちに私たちの持つ技術、技術の可能性についてお伝えできたらなと思い出展しています。
また、私たちは電子部品メーカーですので、このような機会に私たちの技術を見ていただくことで、若い皆さんのイマジネーションが膨らみ、将来のテクノロジーの発展に寄与できれば何より嬉しいです。TDKが将来の日本を担う若者にエールを贈るのは、自身が若いベンチャーから始まったという、その歴史に由来するのかもしれません。
参加した生徒たちの声
学生スタッフの協力があっての『物理チャレンジ』
『物理チャレンジ』OBも参加している!
『物理チャレンジ』も15回の開催を重ね、人材を輩出する注目のイベントになっています。興味深いのは、OBの皆さんがボランティアなどいろんな形で大会に参加していることです。
今回の2019では、かつて『物理チャレンジ』で日本選抜チームに選ばれ、2017年『国際物理オリンピック』で「Absolute Winner(アブソリュート・ウイナー)」(後述)を獲得した渡邉明大さんが、運営スタッフとして参加していました。
「『物理チャレンジ』に参加して楽しかったので、恩返しのような気持ちでお手伝いしています」
AWARD
表彰式・各受賞者のコメント
いよいよ結果発表です! まずは第1チャレンジ実験優秀賞、優良賞、銅賞、銀賞、金賞、つくば科学万博記念財団理事長賞 他の順に受賞者が発表されました。
金賞
池田侑登さん(筑波大学附属駒場高校3年)
海原央翔さん(北野高校3年)
笹木宏人さん(筑波大学附属駒場高校3年)
千葉遼太郎さん(筑波大学附属駒場高校3年)
辻圭汰さん(岐阜高校2年)
山田耀さん(筑波大学附属駒場高校3年)
つくば科学万博記念財団理事長賞
桑原優香さん(南山高校)
TDK賞
池田侑登さん(筑波大学附属駒場高校3年)
〔TDK 技術・知財本部 井出室長のコメント〕
私たちTDKは物理を重要な基盤にした会社です。ですので、物理に対して能力があり、勉強して未来に挑戦する皆さんを応援するために協賛しております。
物理というのは、日本の産業を支えるための非常に重要な学問の一つだと思っております。今回の『物理チャレンジ』に参加した皆さんは、この後もぜひ一生懸命勉強していただいて、社会に貢献できるような人になってもらえたらと思います。
〔「TDK賞」を受賞した池田侑登さんのコメント〕
去年参加したときも金賞を取れたのですが、試験ではけっこう緊張していて……。今年は実験問題も理論問題も楽しんでできました。それがいい結果につながったと思います。そもそも同じ学校の友達に誘われて参加するようになったので、友達には感謝しています。
物理チャレンジ大賞
山田耀さん(筑波大学附属駒場高校3年)
『物理チャレンジ2019 全国大会』第2チャレンジにおいて、実験問題・理論問題を併せ最優秀の成績を修めた人に贈られる「物理チャレンジ大賞」は、山田耀さんが獲得しました。チャレンジャー100人の頂点に立つ、いわば総代です。12名が、『国際物理オリンピック2020』に挑む日本代表候補として発表されました。数回の強化合宿を行い、このメンバーからさらに5人が選ばれ、本大会へ臨むこととなります。
〔「物理チャレンジ大賞」を受賞した山田耀さんのコメント〕
とても最優秀賞までいけるとは思っていなかったのでうれしいです。物理チャレンジに参加するのは今年で三回目ですが、昨年は金賞を受賞できたものの副賞は取れませんでした。今年は副賞も狙っていたので良かったです。
〔長谷川理事長からの総評〕
15回目なのでこの『物理チャレンジ』の流れはこれでしっかりとできた感じがします。実験問題、理論問題ともいい問題にできていて、皆さんも挑戦しがいがあったのではないでしょうか。今回は、常連校だけではなくこれまで参加のなかった地方の県立校からの参加も目立ち、参加者の裾野が広がった気がします。他の国ではチャンスをつかもうと、ハングリーに『国際物理オリンピック』を目指す中・高校生がたくさんいます。日本にも優秀な中・高校生はたくさんいるはずですから、さらに多くの中・高校生にぜひ挑戦してほしいですね。
生徒たちのコメント
『国際物理オリンピック』について
『国際物理オリンピック』(International Physics Olympiad:略称「IPhO」)は、2019年7月に開催されたイスラエル大会で、すでに第50回を数える由緒ある大会です。国ごとに5人の中・高校生を選抜し、代表として本大会に送り出します。前述のとおり、80カ国を超える国の代表が集結して物理についての能力を競います。
『国際物理オリンピック』はまさに国の威信を懸けて戦うことになるため、候補者による合宿形式の特訓を行い、最終メンバー5人を決定します。
『国際物理オリンピック』では、『物理チャレンジ』と同じく実験問題・理論問題が課されます。最高の成績を修めた者は「Absolute Winner(アブソリュート・ウイナー:絶対勝者)」という称号が与えられます。日本人でこれを獲得したのは、上記でご紹介した渡邉さんただ一人。
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